2008/10/07

アクセス解析の「KPI」に異議あり

以前から何かもやもやしていたものがあったのだが、何を今更KPIなんだという疑問を以前から抱いていた。自分の中では整理が付いてきたので。

IT系ベンダーの常道で、新しい言葉(特に3文字)を流行らせて廃れていくというのはよくある話。CRM,ERP,ICT,SIS...もちろん定着している言葉もあるが、それはまあよい。新しい市場を自ら作って売り込んでいくというのは、非難されることではない。だがまたかという印象は拭えない。最近の「KPI」も個人的にはその印象をはじめから持っていた。何故今KPIが言葉として(セミナーでも記事でもなんでも)流行るのかという疑問だ。個人的にはKPIなんて言われなくても、分析に必要なデータはこれとこれで、それをあのメニューから持ってきてトレンドグラフにすれば、仮説の検証ができると頭の中で描くことが比較的できるので、何を今更KPIなんだろうと思っているわけだ。


もちろんKPIの考えは欧米発で日本人の造語ではなく、ビジネスプロセスにおける管理手法で、別にアクセス解析だけに特有の考え方ではない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Key_performance_indicator

私もだいぶ昔に経験があるが、財務・会計・経理の世界でも様々な指標があり、この世界で今更KPIなんて言う人はいないんだろうなあ(ひょっとしているのかもしれないが、こちらの世界とはとんと縁が遠くなったのでわからない)。例えば売上高利益率とか自己資本利益率といった指標もわざわざ3文字英語でかっこよく話す人もいないのではないか(EBITAなんて言葉はありますが)。かっこいい言葉をかざすより、粛々と経営分析しろと言われるのがオチか。まあ歴史があって新規概念で売り込んでいくような市場ではないということもあるだろう(でもsalesforceとかもあるし、KPIとか言っているのかも。まあ別のマーケットの事は話が発散するのでおしまいにする)。

で自分はその後メディア(マーケット)・リサーチにも長かったので、毎日数字とにらめっこな人間だった訳で、そういう人間には「KPI」が流行るのは不思議な訳。そんな概念自体が不要。でも大学院で教えてたり、教わってたり(今でも有料の講座や授業はよく受けている)、お客様と話をする中でわかるのは、普通のビジネスパーソンにとって数字を扱うということが極めて難儀なことであるという前提を見失っていたことに気づいた訳だ。いやそれは分かっていたが、「KPI」の流行とは繋がってなかったというのが正解。

で、また別の流行りの成果主義的考え方、これと相まって、「簡単にてっとり早く成果を上げる」ことが急務な訳です。ネット業界的にはSEOから始まって、それが効果が限定されるとLPO、それが終わると、動きも見ましょうと言ってアクセス解析を勧めるといった流れで、提供側も効率的に刈り取れるサービスを提供し、ユーザ側も即効的なサービス利用に突き進んでいるように思える。そしてアクセス解析が100ものレポートから構成されるように高度化された現在、使い続けてもらう魔法の言葉として「KPI」が脚光を浴びているのだと解釈している。部分最適化を突き詰めて進めているということで、売り込む方としては正攻法だが、使う側としてはやはり注意した方がよい。ビジネスにおける全体最適が一番重要なことだからだ。

簡単に言えばアクセス解析の「KPI」は、100あるレポートのうちあなたが必要な10個だけを選択してみましょうということにすぎないと考える(言葉足らずの部分はあるが)。何でもできるツールを作ったために、何にもできなくなってしまった訳。難しすぎるのだ。当然人それぞれによって重要度が違うので、KPIを設定するための選択眼がいるし、それも必ずしも固定的ではない。そのためにKPIがセミナーでも記事でも大流行だが、個人的にはまだまだ違和感がある。よい話やよい事が書いてあるのだが、各自のビジネスに適応するにはあまりにも一般論すぎるし、実はその根底にある考え方のプロセスや方法論、適用にあたっての注意点といった、一見つまらないことこそがキモな訳だ。実践しようとして、全くできないことに気づくあるいは、それなりのものは設定できるが、アクションに繋げられないということになるのではないか。まあ2-3時間程度のセミナーや数回連載のアクセス解析講座では目先のテクニック以上の話はできないので致し方ない。只でセミナーをやって、お客さんが自分でやはりできないので頼んでくるという構図も、商売の仕方としては王道で、別にとやかく言われる筋合いのものではないが。

アクセス解析の場合、個人的にはビジネス視点、ITリテラシー、データリテラシーこのいずれかも不可欠で、こんな人材が少ないのは承知の上だが、結局エンドユーザ側でここに真剣に取り組まないととんでもないミスや誤った解釈がおきてしまうのではないか。ビジネス視点をもっていないと、何がビジネス上で重要なのかの優先順位が付けられないわけで、これは外部からは見えにくいところがある。そのため自社のことがわかっている人間が必須で外には任せられない(外部のコンサルに入ってもらい大金を払うという選択肢もあろうが)。ITリテラシーもアクセス解析のデータ収集の仕組みと、取得できる情報の限界やスパムも理解していないといけないので必要でしょう。もちろん周りに気軽に相談できる相手がいればよいが、自分でも最低限のネットに関する技術はしっておくべき。最後にデータリテラシーだが、数字を見るうえでの落とし穴は結構あるのだが、あまりそういう基礎教育や講座がないので、とにかく失敗して実践積むしかないのだろうか(この基礎部分を最近Web胆で書いたりしているけど、まだまだ伝えきれてないか)。ここはどういったビジネスパーソンでも必須のリテラシーになっていくと思うのだが。

結局、PDCAサイクルでもそうだが、当り前のことを地道にやること。地道に実践積んで経験することが大事。これは企業の人材育成の方針に直結する。結局目先だけ考え、刈り取りばかりしていると最後には何も残らなくなるということを理解した方がよい。特にウェブのボリュームがビジネス上で無視できない位置づけにある企業は、こういう人材を早急に育てないといけないと思う。そうすることが結局トータルコストを下げることになると思うのだが。。。

ということで、大胆にまとめてしまうと、

・ウェブマーケティング業界の皆さんはうまく「KPI」を新しい商売ネタにしつつあるが、実は無限にあるメニューから必要なものを選択するだけに過ぎない(大胆に言えばだが)。
・エンドユーザ企業は、外部はうまく使いつつも全体最適を考え、地道にやる人材を育成すべし。簡単に成功する道などない。

関連リンク:
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「フォーム完了割合」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「ダウンロード完了割合」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「サイト内検索結果でサイトを離脱した割合」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「検索からの購入コンバージョン率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「情報発見コンバージョン率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「ランディング・ページのスティッキネス」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「カートに入れた後チェックアウト開始した割合」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「チェックアウト完了率(Checkout Completion Rate)」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「チェックアウト開始率(Checkout Start Rate)」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「カート完了率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「カート投入率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「キャンペーン別の注文コンバージョン率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「新規と再訪問者の比率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「新規と再訪問による購入者コンバージョン率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「購入者コンバージョン率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「注文コンバージョン率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「サイト内検索結果が利用されない%」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「サイト内検索結果が出てこない%」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「サイト内検索を利用した訪問者の%」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「訪問者(顧客)の満足度が高いあるいは低い%」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「新規訪問者(顧客)と再訪問者(顧客)の注文の%」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「新規訪問者(顧客)と再訪問者(顧客)の売上の%」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「前回訪問時との間(リーセンシー)が長い・中くらい・短い訪問者の%」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「多い・中くらい・少ない訪問頻度の訪問者の%」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「長い・中くらい・短い滞在時間のセッション割合」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「特定セグメントの訪問者割合」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「新規顧客と再訪問顧客の割合」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「新規訪問者と再訪問者の割合」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「一訪問当たりの平均検索数」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI指標「コンバージョンまでの平均訪問回数」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI「キャンペーン別クリック率」
アクセス解析(ウェブサイト)のKPI「一注文当たりの平均購入数」

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