2007/11/25

知っているようで知らないテレビ視聴率3

今回は調査協力世帯の入れ替えと調査対象にしてはいけない候補者について。

パネル(調査協力世帯、協力者をプールした形の)調査方式では、調査慣れという問題が生じる。調査に慣れてくることでいい加減に対応したり、調査結果のフィードバックによって行動が変ってしまったりといった問題が懸念されるのだ。高視聴率番組などの一部データは公開されているので、そういったものに影響を受けないとも限らない。グループインタビューなどで、人の意見につられて心にも無いことを言ってしまったりするのと、レベルは違うがフィードバック効果という意味においては同種のことだ。

パネル獲得のためにサンプリングに時間とコストを掛けたいわば資産を捨てるのはしのび難いのだが、ビデオリサーチのテレビ視聴率調査では、ピープルメータによる調査地点では2年間、それ以外の地域では3年間と調査協力期間を限定している。一度にサンプルを入れ替えると、調査の連続性に対するリスクもあるので、ビデオリサーチでは毎月均等に入れ替えを行い、丸2年/3年で全部の世帯が入れ替わるようにしている。

テレビ視聴率調査に於ける調査慣れは、実際どのような現象を伴って表れるのかは知らない。幾つか想像できるものとしては、機械の操作や日記式の記入に関して、時間が経つにつれて「雑」になっていくことだろう。始めは物珍しさや間違えてはいけないという意識があるので、慎重に行っていたことが、段々雑に処理されることになることはあるだろう。結果として全体的に視聴率が下がっていく傾向があるのかもしれない。当然ビデオリサーチは調査協力世帯の時系列での世帯視聴率なども把握し、そういった知見があるはずだ。その上で2年、3年といった期間を設けているのではなかろうか。

一方ウェブでもメールでもよいが、インターネットを介した調査が現在盛んだ。その殆んどが自主参加型で、ポイントなどの取得目的で多数のパネルが登録されているようだ。調査会社は手っ取り早く調査対象者を集められるし、回答者もポイントを稼ぐことができるという、どちらにもメリットのあるシステムだが、こういったパネルがどれだけきちんと答えているのだろうかというのは正直心配だ。調査慣れもあっという間だろう。もちろん調査実施頻度をコントロールしたり、2重登録防止のための口座情報の登録、ダミーの質問を入れることで「雑」な回答ユーザのふるい落としなど、いろいろなノウハウはあるようだ。

確かに人数の規模があるパネルを抱えている調査会社は、非常に出現率の低い特殊なユーザを集めることはできるだろう。しかし実は対象に該当しないのに手を挙げて、調査に参加しているといった笑えない話もある。いろいろなフィルタリングをしても、人手でなく恐らく「システム」で対処しているため、まだまだちょっと機転の利いた人間の知恵には勝てずに、そのようなことはおきてしまうのだろう。

ビデオリサーチのテレビ視聴率調査の謝礼額は、サイトを見ても書いてないようだったが、恐らくそれ程高額ではなかろう。むしろこの人達は、この調査に参加できるというステータスで高い満足を得られているはずだ。もちろん調査対象期間中(終了後も継続してかもしれない)に、自分が調査対象者であることを秘密にしなければならないので、周りに自慢できないという点は歯がゆいだろう。調査協力期間が2年/3年なのは、こちらの要因もあるかもしれない。つまり外部に調査協力していることが漏れてしまうことは2-3年程度が限界という経験則なのかもしれない。

さて、こうやって大変な思いをして集める調査協力者だが、実はまじめにサンプリングしてたまたま当たったとしても、調査対象者として加えてはいけないサンプルがある。ビデオリサーチのサンプリング手法によれば、「マスコミ関係者のいる世帯などは除きます」と明記してある。どこまでの範囲なのかは厳密にはわからないが、放送にたずさわる者、広告代理店、大手広告主、調査会社などは、直接データを作る側には回ってはいけないというのが、調査業界の了解だ。ネット調査のパネル募集のページなどでも、同じようなことが書いてある。

以前私が媒体社の調査部門に在席していた時代に、訪問面接法で自宅に何回か調査員が訪れたことがある。一応こういう者であることを申告した上で、調査協力するとまずい範囲の人間かもしれませんが、協力してもいいですよと告げたところ、「では今回は諦めます」と言われなかった。当然私もまじめに回答したのだが、あと味はあまり良くなかった。もちろん大したことのない謝礼をもらうことよりも、1票集める大変さに同情したということだが、この時、どのような人は調査対象者から外すように、指示を受けていたのだろうか。

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