2007/11/19

知っているようで知らないテレビ視聴率2

今回はテレビ視聴率調査の測定時の精度に関わる問題を考えたい。サンプリングによる統計誤差の話と、機械式の留意点を前回お話したので、今回は集めたデータのチェックに関してお話したい。なお私はテレビ視聴率の現場を実際に知っている人間ではないので、調査会社の一般常識から想像できることをまとめたものである。

前回機械式の計測における疑問点として、「別の人が押し間違えたらどうなるの」とか「視聴が終わっても押しっぱなしになっていたらどうなるの」とか「4歳の幼児がそんな操作ができるの」とか「猫がボタン押してしまったらどうなるの」といった例を挙げた。これらの点に関しては、チェックのノウハウがビデオリサーチにはあると思われるが、私ならそれぞれの問題に対しての対処を次のように考える。

「別の人が押し間違えたらどうなるの」かのチェックとしては、子供が深夜にテレビを見ている、あるいはサラリーマンのお父さんが、いつも日中に自宅でテレビを見ているといったデータが恒常的に出ている世帯があれば、日常的に機械のボタンを取り違えている可能性があると判断する。たまたま間違えた場合は、それをシステマティックに見つけようがないので、チェックは諦めざるを得ない。こういったことが起こりにくいように、「ボタンには個人の顔のイラストをつけ、入力確認がしやすいよう工夫しています」ということな訳だ。

次の問題「視聴が終わっても押しっぱなしになっていたらどうなるの」、に対する自問自答は、家族の個々人別にその人が継続して見ている視聴時間の統計を蓄えておき、過去の経験則からの逸脱が著しい視聴に関して、何らかの判定ルールを設け、例えば子供なら最長継続視聴時間は3時間で切ってしまうといった処理を行うことを考えるだろう。インターネットでセッションを30分で切ってしまうような考え方だ。テレビ視聴は受動的なので、見てないけどつけっ放しの状態の時間の認定は、インターネットより長い時間に設定するのが相応しいと思われる。

「4歳の幼児がそんな操作ができるの」に関しては、確かに正しい操作を一人で出来るかどうかは難しいだろう。とすれば恐らく基本的に親御さんが傍にいることが前提という考え方で、視聴開始時は親御さんも一緒に見始めるというのを基本操作ルールとしているのかもしれない。また今までの話では機械が正常に動作するということが大前提となっているが、異常な動作が原因となるデータの不具合も考えられる。この場合はシステム上でのバックアップなどの仕組みによってリカバリーされるような工夫がされているはずだ。

何れにせよこのような様々なケースに関して、調査会社で蓄積されている知見に基いて、システマティックに判定するルールがあり、中期スパンでこの判定ルールの見直しを行うような運用をしているのではなかろうか。

さてテレビ視聴率でも日記式のものがあるので、そちらのデータのチェックについても考察してみたい。こちらはより一般の統計調査のプロセスに近いので、問題となりそうなプロセスが増えることになる。視聴率調査 3つの調査方法の、日記式アンケートによる個人視聴率調査のプロセスを見ると、データ収集からデータ提供まではstep1からstep6までのプロセスがある。

step1「調査員によって調査票が届けられ、対象者(世帯内の4歳以上の家族全員)はテレビの視聴状況を記入します。調査票には5分刻みの記入欄があり、対象者は、テレビごとに、個人単位でテレビを見た時間に矢印線を引く方法で、1週間毎日記入していただきます」。step2「調査員が訪問し、1週間分の視聴記録を回収します。記入もれや不明な点は、その場でチェックします」。step3「視聴記録は、専用の入力機器(デジタイザー)を用いてペンタッチ入力し、パソコンにデータを蓄積します」。step4「入力されたデータは、1週間分まとめてコンピュータセンターで集計します。日記式個人視聴率の最小単位は5分。それら毎5分視聴率をもとに、年齢区分ごとの番組視聴率や時間区分視聴率を集計します」とある。

step1とstep2は、訪問留め置き法における調査票のチェックの手法が適用される。その手の教科書に詳しく書かれていることではあるが、メーキングという調査員による不正(自分で回答を捏造すること)の可能性があることと、調査対象者がきちんと実態を調査票に書き込んでくれない可能性があるということだ。当然ビデオリサーチはメーキングが行われないためのチェック体制は構築されているだろう。5分刻みできちんと記入してもらうノウハウと集計上でのチェック方法も必ずあるはずだ。しかしどうやって丸々1週間の間、5分刻みで家族全員がテレビ視聴率に協力させるモチベーションを維持させるのだろうか。難しい問題だ。

私の経験では、例えば同じ繰り返しの質問が続く設問で、全部同じパターンの回答(例えば50ブランドを5段階評価で聞くような場合に、全て「5.詳しく知っている」に丸を付けているようなケース)があった場合は、該当の設問を全て無効にするような処置を行っていた。テレビ視聴率で、日記式の記入が、日曜日から土曜日まで毎日同じ時間帯の番組視聴となっていたら、調査回収日に調査員が訪問した場合のチェックで、「それはおかしいのではないか」と尋ねるだろう。勿論この時点で、過去の記憶を遡るのは厳しいので、一つ上のパラグラフで書いたように調査回答者のモチベーションを維持させる方法がより重要な訳だが。

何れにせよ、テレビ視聴率調査も、一つ一つのプロセスで、厳しいチェックが行われ品質維持がされているということなのである。どんな調査でもそうだが、調査会社がどのようなチェックを具体的にしているかを聞くことも重要だ。つまり依頼する側も「知らなかった。聞いてない」ではなく、内容を十分に理解してから実施することも、リサーチ・リテラシーの一つと言える。

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